地域の発展と環境の調和−丘珠空港をモデルケースとして−

森雅人(札幌国際大学/助教授)
千葉昭正(札幌国際大学短期大学部/教授)
平岡祥孝(北海道武蔵女子短期大学/助教授)


背景・目的

 最近、国内定期航空事業への新規参入や国内エアラインの需給調整撤廃、運賃自由化に関する決定など、航空規制緩和の動きが加速しており、このような動きを北海道経済の活性化に役立てるには、丘珠空港ジェット化が必要不可欠な条件となる。本研究では国内外の市内空港を先行事例として分析しながら、《経済効果》《合意形成》《環境調和》の視点から街の中にある空港としての丘珠空港の優位性や解決すべき課題とその解決策を提示し、地域の発展を見据えた環境と調和のとれた空港のあり方について具体的に提案することを目的としている。

内容・方法

 「地域経済活性化」「地域住民との合意形成」「地域環境との調和」の視点から、国外(イギリス)空港/ロンドン・シティ空港、ヒースロー空港、国内(日本)空港/成田空港、伊丹空港、松本空港、新千歳空港、丘珠空港を対象として[経済効果][合意形成][環境調和]について分析を行った。
 [経済効果]丘珠空港と後背地の産業振興、市内空港としての利便性、低コスト体質による生産体制の確立、エアライン運営に必要な条件整備等の分析を行い、「既存資源の有効活用」「新千歳空港国際化のあり方」「丘珠空港ジェット化の経済的意義」について問題を整理した。
 [合意形成]情報公開及び危機管理システムの構築、丘珠空港と周辺施設との連携によるまちづくり、空港ターミナル及び周辺農地の多目的な利用等の分析を行い、「行政における情報公開のあり方」「フレンド・シップ形成とコミュニティ・カウンシルの設置」「丘珠空港とコミュニティとの共生」について問題を整理した。
 [環境調和]騒音対策と緩衝緑地の整備、住環境及び商業施設整備、空港周辺道路及び幹線道路の整備、生態系の変化への配慮等の分析を行い、「地域環境と市街地空港の有り方」「バッファゾーンの整備と課題」「丘珠空港のアメニティ創造への寄与」について問題を整理した。

結果・成果

 本研究の結果・成果を行政対応に関する提言として、次のように整理する。
1 地元需要を含む背後需要が集積していない新千歳の安易なハブ化は避けるべきである。
 既存資源の有効的活用、あるいは空港の共生という視点から、丘珠空港の高質的活用を図るべきである。
丘珠空港を小型ジェット機の就航する市街地空港として整備することは、札幌を核とした地域経済圏の活性化につなげるだけでなく、新千歳空港の補完的役割を担う潜在的能力を有することにもなる。
2環境問題に関して地域住民との合意が得られていない現状で、滑走路の延長に踏み切ることは好ましい姿ではない。空港整備を実行する以前に、情報公開制度を確立するとともに、騒音・排ガス・農地の劣化などの環境問題を総合的に議論・監視する地域主体のコミュニティ・カウンシルを設置すべきである。加えて、丘珠空港周辺地域の土地利用を再検討して、地域住民はじめ多くの市民が恩恵を受けられるように多目的化を図り、その利用価値を高める必要がある。
3地域住民との合意形成を成し得るには、具体的に市民が受けられるサービスと効果を明確にする必要がある。住民の意向に沿った環境対策を展開するには、丘珠空港周辺地域に緑地によるバッファゾーンを設けるだけでなく、新たに吸音性の優れた防音壁を設置する必要がある。また、空港の北側に広がる農地は緑地形成とともに地域住民をはじめとする市民の憩いの場ともなる。景観を悪化させ、住民の健康を脅かす恐れのある高圧電線は地下に埋設する計画も必要である。サイクリングロード、親水空間の整備によって、札幌市の「環状夢のグリーンベルト構想」との一体化も図られる。

今後の展望

 本研究では丘珠空港の高質的活用、すなわち「ジェット化の推進」「コミュニティ・カウンシルの設置」「空港周辺緑地の整備」に関する提言を行ったが、今後、研究の深化を図るには地域住民、空港管理者、エアライン等を対象としたインテンシブな調査研究の集積と、総合的な地域づくりの視点から捉えて、空港がもたらす社会的便益に関する実証的研究の推進が必要である。