断面積が一様でない円管内の音波の非線形共鳴振動の数値解析

矢野  猛[北海道大学大学院工学研究科/助教授]

背景・目的

共鳴現象によって管内に生じる音波の大振幅の振動(圧力変動にして大気圧の数分の1程度)は、熱音響エンジン、熱音響冷凍機、音響圧縮ポンプ等の様々な先端技術に応用されつつある。しかしながら、振動の安定性、振動の非線形効果によって励起される流れによる効率低下等の克服すべき課題を多く抱えている。なかでも、非線形効果によって音波が衝撃波に発達し、管内の気体の振る舞いを著しく異なったものとすることは、上述の応用に際して非常に望ましくない。そこで、断面積が一様でない管を用いて、管内に音波の反射と干渉を起こし、衝撃波を発生しないようにする試みがなされている。ところが、断面積が一様でない管の中の音波の振る舞いが非常に複雑なものとなるために、どのような形状が、もっとも安定に、大振幅の振動を効率よく実現することができるのか、ほとんど理解されていない。本研究では、流体力学の基礎方程式を精密に数値的に解くことによって、管内の気体の振動特性を明らかにし、共鳴振動を利用する応用技術の発展のための基礎的な知見を得ることを目的とする。

内容・方法

流体力学の基礎方程式は、気体の密度、圧力、温度および流速を未知変数とする、非線形連立偏微分方程式であり、その解を求めるためには、一般に大規模な数値計算に頼らざるを得ない。とくに、疎密波である音波に関わる問題は、水流などのように流体の密度変化を考慮しなくてよい問題と比べて、非常に大規模な計算を行わねばならない。これは大変困難なことで、この困難さが、管内の音波の共鳴振動の問題が今もって十分理解されていない理由の一つである。研究代表者は、これまでに、航空工学の分野で開発され発展してきた計算方法(高解像度風上有限差分法)を応用し、スーパーコンピュータを用いて、さまざまな音波に関わる問題の大規模な数値計算を行ってきている。本研究は、その計算方法とそこで蓄積された計算技術を利用するものである。
計算の実行は、北海道大学大型計算機センターのスーパーコンピュータSR8000を用いて行った。大型計算機センターでは、10万円の利用負担金を前払いすることによって、200万円分の利用が可能になる付加サービス制度があるので、これを利用した。これによって、スーパーコンピュータをおよそ300時間使う計算が可能となった。本研究ではこのような大規模な数値計算を行った。1年間の研究期間中に、次々と得られる計算結果に対する物理的な考察をふまえて管の形状の効果を吟味しながら、計算を効率よく進めていくことにより、期待する成果をあげることができた。

結果・成果

本研究によって、断面積が一様でない管の中の気体の共鳴振動のいくつかの特徴が初めて明らかになった。詳細は研究成果報告書の中に述べたので、以下では、とくに重要な2点について、要約する。
(1)管の形状の変化が小さいほど、衝撃波が形成されやすく、管の形状変化が大きいほど衝撃波は形成されにくい。確かに、衝撃波は非線形効果の蓄積によって生じるものであるが、ここで述べたことから、直ちに、管の形状変化が小さいほど非線形効果が現れやすいと考えるのは誤りである。実際、本研究の結果によると、管の形状の変化が大きく衝撃波が形成されないときの方が、衝撃波が形成されるときより、共鳴振動の最大振幅はずっと大きくなることがわかったのである。つまり、衝撃波が形成されないときの方が、非線形性が強いのである。ただ、その強い非線形性が衝撃波の形をで現れないために、大振幅調和振動に近い現象が得られるということである。
(2)管の中には音響流とよばれる平均流が誘起される。この平均流も、もちろん非線形効果によって生じるのであり、したがって、衝撃波が形成されないような断面積変化が大きい管の中ほど、大きな流速の音響流が生じる。

今後の展開

共鳴現象によって管内に生じる音波の大振幅の振動(圧力変動にして大気圧の数分の1程度)は、熱音響エンジン、熱音響冷凍機、音響圧縮ポンプ等の様々な先端技術に応用されつつある。本研究は、これらの先端技術の効率の良い実用化の前段階として、物理現象に対する基礎的な理解を深めるためのものであった。その目的は十分に達せられた。今後は、これらの応用技術の実用化と、さらには、新しい技術の創出を目指すという立場から、この研究を深めてゆきたい。