シートマット・ソーラーポンド式メタン発酵家畜糞尿処理バックに関する基礎研究
梅津 一孝[帯広畜産大学畜産学部/助教授]
金山 公夫[北見工業大学/名誉教授]
高橋 潤一[ |
帯広畜産大学畜産学部畜産管理学科家畜生産機能学講座/教授] |
岸本 正[ |
帯広畜産大学畜産学部畜産環境科学科生物生産システム工学/助教授] |
佐藤 禎稔[ |
帯広畜産大学畜産学部畜産環境科学科生物生産システム工学/講師] |
千葉 光律[光化成(株)/取締役会長]
千葉 秀俊[光化成(株)/取締役社長] |
背景・目的
ヨーロッパ先進諸国で行われている大規模発酵設備と異なり、建設コストが安く、酪農家各自において施設の設置が可能な密閉シ−ト型のメタン発酵処理施設の開発を目的に実験施設を施工した。実験装置の概略、温度解析について報告する。
内容・方法
開発研究を行った糞尿処理装置は、密閉型廃棄物処理場と称し、2枚のシートより成る密閉容器内にスラリー状の糞尿を貯留する。容器の底部および側面を断熱し、上部に温室用ビニルハウスを掛け、日射と気温のみによって糞尿を発酵させ堆肥化すると共に、メタンガスを採取する方式である。
この方式の利点は以下の通りである。
1. 安価で手軽に設置できる。
2. パッシブ方式の太陽エネルギー利用であり、ランニン グコストが安い。
3. 密閉式であり糞尿の漏洩や臭いの拡散が無く環境に悪影響を与えない。
4. 得られたメタンガスを燃料として利用できる。
温室型ビニルハウス内に設けた密閉シート貯留槽に糞尿を投入し温室内に入射する日射によってシャローソーラーポンドを形作る貯留槽の温度を上昇させ糞尿の発酵を促進させる。貯留部は糞尿スラリーを投入するためのパイプとスラリー抜き取り部およびガス採取部から構成される。
結果・成果
貯留槽の熱解析
試作実験施設の貯留槽(メタン発酵槽)の温度解析を行った。計算は1月から12月まで各月の平均日射量、気温、土中温度を用いて行った。時間変化は日の出の時刻を1日の出発点とし、日射量の時間変化は各月15日の太陽高度の時間変化で表し、気温は平均値と最高・最低温度からサインカーブで近似した。
日射量が982kcal/日と小さく、外気温も-19.5〜-8.2℃低いことから、スラリー温度TSは最低値で約5.4℃、最高値で約10.7℃である。これより、1月はメタン発酵反応が起こらないといえる。これは貯留槽の深さが0.5mで、スラリーの貯留量は9m3となり、受光面積に対する貯留量の比は0.5と大きい。1日の貯留槽温度変化は5.4〜10.7℃と小さい。ハウス内温度は1.0〜4.1℃であり、外気温度より夜間で約17℃、日中で約20℃高い。4月は、外気温度が-5.3℃から5.2℃であり、日射量も大きく、TSは28.2℃から36.7℃と高温度になり、30℃以下の中温メタン発酵が行われることが分かる。7月は、TSが32.6℃から40.3℃と高温度となる。日の出後の約5時間はTSが下降し、5時間後に最低値32.6℃となる。この様に7月は一日を通じてTS は30℃以上40℃以下の温度が維持されることから、ほぼコンスタントなメタン発生を期待できる。もし中温発酵が35℃から37℃で起こるなら、1日のうち約20時間メタンガスが発生する。なお8月は年間で最も貯留槽の温度が高く1日を通して中温発酵が期待できる。10月の温度変化を示す。外気温度は-1.5℃から9.2℃まで変化し、TSは23.1℃から29.1℃まで変化する。すなわち10月は1日を通してTSが20℃以上を示すことが分かる。これらの計算結果は貯留槽の底部及び周囲の熱通過率を2kcal/(m2hr℃)を用いたものである。このことは貯留槽には十分な断熱が必要であることが分かる。TSは4月から8月の間は30℃以上になる。TSが20℃以上になるのは3月から10月の8ヶ月間であることが分かる。TSは貯留槽の断熱性を増すことによって発酵に必要な温度を維持することが出来る。また貯留槽の容積を多くすると1日の温度変化が小さくなり、発酵を1日中行わせることが可能であるが、この場合11月から2月の冬期間は発酵が休止することになる。
今後の展開
大きな環境汚染問題である家畜糞尿の堆肥化に太陽エネルギーを利用した低廉なメタン発酵処理施設を提案し、実証試験を行っている。シミュレーション計算によれば、発酵温度を20℃以上とすれば、3月から10月までメタン発酵が可能であり、30℃以上としても5月から8月までの4ヶ月間はメタン発酵出来ると考えられる。このシミュレーションは施設の断熱係数を仮定した試算であり、これを参照して、適切な断熱施工法を選択することが可能であると考える。
|