効果的な術前看護介入の基準開発に関する研究

清水実重(北海道大学医療技術短期大学部看護学科/助手)


背景・目的

 手術は人間にとって身体的・心理的・社会的危機状態であり、十分な術前準備が術後の回復過程を左右すると言っても過言ではない。しかし、近年の医療改革により、平均在院日数の短縮が病院経営上の大きな課題となり、術前入院期間の短縮に伴い、患者に対する、質の高い看護ケアの提供が困難になってきている。

 そこで、本研究では、術前入院期間の短縮に伴い、どのような看護ケアが提供されているのか、それらを患者はどのように受け止めているのか、その現状を評し、術前看護ケア上の問題点を整理し、ケア改善のための課題を提言することを目的とした。

内容・方法

 本研究は、帰納的アプローチを用いた質的記述的研究である。
【研究対象】
 看護(A)加算をとり、看護婦の教育・研修活動を意図に行っている施設の外科系病棟(4病棟)に入院中の患者18名と、各病棟の中心的存在で、看護実践力があると推薦が得られた看護婦4名。その他、術前教育用の資料、看護記録等。
【データ収集方法】
 1病棟の術前看護ケア内容を記録、資料等からデータ収集し、看護婦との面接を行った。
 2対象患者には、協力依頼書で研究の同意を得、倫理的配慮を十分に行い、術前・術後各1回ずつ面接を行った。面接内容は、術前に受けた看護ケア内容とその評価を中心に質問を設定した。面接は、自由回答方式で行い、メモをとりながら進め、面接直後にメモと研究者の記憶に基づき記述した。
【分析方法】
 各病棟の術前看護ケア内容を整理し、先行文献との比較分析を行った。また、得られたデータを元に、患者が求めている看護ケアを整理し、看護ケア内容・方法、術前入院日数、癌告知の有無などが術前状況に影響を与えているのか、その関連要因を整理していった。

結果・成果

1.対象患者の概要

 対象者は18名で、男性8名、女性10名であった。18名中、術前の入院期間が10日未満の方は9名、10日以上の方は9名で、悪性疾患が7名、良性疾患が11名であった。悪性疾患患者は全員、入院前に癌の告知を受けていた。
2.術前看護ケア内容の現状
 各病棟の術前看護ケア内容は、1必要物品の説明。2術前から術後に行われる処置等の説明。3合併症予防・早期離床等のための指導。4術後の生活状況や回復過程等の説明。5心理的ケア等であった。4病棟とも、1、2については独自に作成したパンフレットを使用していた。4、5については、各々の看護婦に一任され、口頭での説明が主であった。また、術前入院期間の違いによって、ケア内容を変えている病棟はなかった。看護婦自身が問題と捉えていることは、術前入院期間が短い患者に対してのケアが十分にできていない、用紙(パンフレット)を手渡すことしかできない、特に心理的問題へのケアができていない等であった。
3.術前看護ケアに対する患者の主観的評価
1)術前入院期間に対する看護婦・患者の認識
 対象者の平均術前入院期間は13日間で、疾患や手術内容による差はなく、患者の身体状況や諸事情等によって異なっていた。看護婦側は術前入院期間の短縮は患者にとってはメリットがあると考えているが、患者の個別性を捉え、信頼関係を作っていくのが難しいとも感じていた。患者側は肯定的に受け止めていた。
2)術前看護ケアに対する患者の反応と認識
 患者側は、必要物品や術前処置などの情報提供は認識していたが、具体的に何を期待してよいのかわからず、満足しているという結果は得られなかった。また、提供された看護ケアに対する術前の患者反応は6通りのカテゴリーに分類することができたが、看護ケアに対する認識が低く、あまり期待していないという反応であった。患者が望んでいた内容を整理すると「十分な説明と納得」「理解の手助け」という2つのカテゴリーが抽出された。これらは、術後の生活状況や回復過程等の具体的内容を正しく知りたいというニーズであり、自分自身の手術に主体的に参加する、意志決定を行うための情報を得たいという姿勢であった。看護婦には患者の支援者・擁護者としての役割が求められていた。
3)患者が抱える心理的問題
 面接で患者が最も多く語った内容は、手術を目前にした心境であった。患者が語った不安・心配等の内容とコーピング様式は、先行文献と一致したものであり、術前入院期間、病棟の違い、年齢や性別等個人特性による違いはなかった。しかし、対象者の中で、癌告知を受けている患者の心境は、非常に複雑であった。癌の告知は入院前に医師から受け、手術の必要性もその時に説明されているが、手術よりも、癌の完治や再発への不安、自分はどうなるのか等という、癌と向き合い、揺れ動く心理状況であった。今回の調査では、癌の告知を受けてから手術に至るまでの期間は、どの患者も1ヵ月以上であったが、その間、十分なケアはされておらず、看護婦による全人的な心理的ケアが求められていた。

今後の展望

 以上の結果から、病院外来での早期術前患者教育の必要性が示唆された。また、患者が主体的に手術に参加できるための支援者・擁護者としての役割、心理的ケアの充実が看護婦に求められていることが示唆された。
 今後の課題としては、術前入院期間の短縮に伴い、外来での早期術前患者教育を試行的に実施し、看護ケアの効果を客観的に測定していくことが重要となろう。また、その際には、心理的問題へのケア、特に、癌の告知を受け、手術に臨む患者への支援を試みることも課題と考えられる。