北海道東部に位置する屈斜路湖を、衛星マイクロ波レーダーの画像から見ると、明らかに御神渡りとみられる表面構造が捕えられている。この湖上における検証を行うことにより、御神渡りや氷厚の分布を調べることが可能となり、湖氷の性質を抽出することも期待される。屈斜路湖における御神渡り現象が、プレートテクトニクス理論による地震発生の諸現象と物理的に類似していること、湖氷の変動が熱収支の側面から、地球温暖化現象の指標となることから、湖氷の連続的な観測が大変重要であると考えられ、衛星マイクロ波レーダの画像解析から、御神渡りや氷厚分布を調べる可能性について検証する。
御神渡りの分布と湖氷の氷厚分布を、衛生マイクロ波合成開口レーダを解析することにより調べていく。また、2月には、主として衛星マイクロ波合成開口レーダと同期させた、地上検証のための連続的な観測実験を屈斜路湖の湖上で行う。これにより、衛星の画像データから湖氷の物理量を抽出するための信頼性を高めると共に、湖氷上での物理的現象の基礎的な観測を行うことができる。
衛星マイクロ波合成開口レーダは、センサの違いより観測波長が異なり、観測の対象物に変化が現われる。Cバンド(ERS・1、RADARSAT)を用いることで、御神渡りの分布の抽出を行い、Lバンド(JERS・1)を用いることで、湖水内部層の性質の抽出を行う。センサの違いを効果的に用いることで、湖氷の性質をより精度良く検知していく方針である。また、光学センサを搭載した衛星(NOAA、LANDSAT・5、SPOT・2)による熱赤外、近赤外、可視画像データの解析を併せて行う。
衛星マイクロ波合成開口レーダのデータを使用した御神渡りの分布の検出は次のように考えられる。湖において御神渡りが発生した場所ではマイクロ波が湖氷表面付近の御神渡りの場所で散乱し、御神渡りのラフネスによる後方散乱が支配的であると考えられる。このことから、御神渡りが発生した場所では後方散乱が大きくなり、画像上で明るく映る。また、御神渡りが一度でも過去に発生すれば、その場所が再凍結などを繰り返す内に表面上では平坦でも内部構造は複雑化したものになると考えられる。したがって、御神渡りが発生した場所では湖氷の内層に不連続な層が形成されることになり、マイクロ波が散乱して過去に発生した御神渡りをある程度時間が経ってからでも検知することが期待できる。
一方、光学センサのデータを使用した、御神渡りの分布の検出は次のように考えられる。光学センサのデータは、物体からの放射、太陽光による反射をみている。したがって、光学センサのデータは、主に表面の情報を得ることしかできず、マイクロ波領域を観測できるマイクロ波合成開口レーダのように湖氷の内層情報を得ることができない。御神渡りが発生して間もない時など、積雪表面にも影響が及ぼされた場合には、光学センサでも御神渡りを検知することができる。しかし、近赤外や熱赤外データを使用することで御神渡りを検知する方法も考えられるが、基本的には、湖上表面に御神渡りの影響が現れていない場合の検知は不可能であると考えられる。
1996年と1998年の2月に取得された光学センサおよびマイクロ波合成開口レーダの画像データを解析、比較を行った。1996年の比較対象データは、光学センサデータがSPOT・2、マイクロ波合成開口レーダデータがJERS・1を使用し、1998年の比較対照データは、光学センサデータがLANDSAT・5、マイクロ波合成開口レーダデータがRADARSATを使用した。
SPOT・2、の画像からは、御神渡りとみられる表面構造を確認することができる。画像データ取得日は晴れていたため、湖上のほぼ全域を観測することができたが、光学センサデータは雲が存在する場合は、雲を見てしまい、その下を観測することができない。JERS・1の画像からは、御神渡りと見られる表面構造を確認することができなかった。これは、観測波長がLバンドで、入射角およびマイクロ波の侵入深さが大きいことが起因していると考えられる。LANDSAT・5の画像からは、御神渡りと見られる表面構造を確認することができる。しかし、御神渡りをあまり明確に確認することができないのは、LANDSAT・5の地上分解能が30cであり、SPOT・2の地上分解能が20mに比べて劣ること、可視領域である赤・青色バンド(バンド3・1)が飽和したことが起因していると考えられる。RADARSATの画像からは、御神渡りと見られる表面構造を確認することができた。このことを、RADARSATの画像と地上で御神渡りを撮影した写真とを比較すると、御神渡りの発生場所において、よく一致することが確認できた。
人工衛星の画像データから湖氷を調べる手法を確立することにより、湖氷の物理的な性質および自然現象の把握を行うことが可能となる。御神渡り現象を調べることで、地震発生機構への知見を得ることができると考えられ、氷厚を観測することは湖氷と大気との熱収支を知り、地球温暖化現象の指標となる。
このことを、天候に左右されずデータを取得することができる衛星マイクロ波合成開口レーダを用いることで、定常的なデータの取得および解析を行うことが可能となり地球温暖化現象を食い止めるための一助となる非常に有用性の高い観測手法を提供できるものとなる。
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