現在の高度情報化社会を根底から支えているものに光通信がある。光通信には1.3μm〜1.55μmの波長帯に感度を有する光検出器(PD)が光-電流変換素子として重要になる。現在、このPDは化合物半導体を材料としている。この化合物半導体PDは製作プロセスが難しいことおよび高価であること等が欠点としてあげられる。この欠点を克服する方法として、安価で安定した素子が実現できるSiテクノロジーを用いたSiGeアバランシェ・光検出器(APD)が有望視されている。本研究では高検出感度を有するSOI導波路型SiGe
APDの実現を目指した。
本研究は大きく2つの部分に分けて行われた。
(1)高感度化に向けた構造
SOI導波路型SiGe
APDの高感度化のための方法としてSiGeよりも1.3μm〜1.55μmの波長域で光吸収効率がよいGeを吸収層に用いることを検討した。具体的にはSi基板上にGeを直接MBE法によりエピタキシーさせる方法、すなわち結晶成長中の基板温度、ブァッファー層の厚さ、転位発生機構等について検討した。さらに、実際に結晶成長を試み、RHEEDおよびSIMSによって評価を行った。
(2)SOI導波路型SiGe APDの試作と評価
高感度化にむけて(1)で検討した構造を有するSiGeAPDの試作まで研究は進めなかったが、結晶成長が比較的容易なSiGe/Si超格子構造を用いたSOI導波路型SiGe
APDを試作した。また、1.3μmおよび1.55μmの入射光に対する感度を測定した。さらに、アバランシェ特性についても評価した。
高感度化に向けた構造
固体ソースMBE法を用いてSi基板上にGeをエピタキシー成長させた。Geを数nm堆積しSbをドナーおよびサーファクタントとして1原子層堆積させ、アニール処理を行う工程を数回繰り返すことによって、結晶性の良いGe層がSi基板上に成長させることが出来た。結晶性はRHEEDによって評価した。また、Sbのドーピング濃度はSIMSによって評価した。
SOI導波路型SiGe APDの試作と評価
デバイスの作成は以下の手順で行った。基板は面方位(100)のSOI基板を用いた。光吸収層はアンドープSi(480A)/.Si0.56Ge0.44(66A)×12の超格子構造である。APDのサイズは30a×500aで、SOI導波路の長さは約1.0aである。表面はPECVDによって形成されたSi02によって保護されている。光ファイバーを用い波長1.3μmおよび1.55μmのレザー光を導波路に入射して光電流の測定を行った。入射光はSOI導波路を通過し、SiGe/Si超格子吸収層の下部に達する。SiGe層の屈折率はSiに比較して大きいので、入射光はSiGe/Si超格子吸収層に徐々に入射し光電流を発生させる。試作したAPDは室温において良好な電流電圧特性を示し、漏れ電流は印加電圧10Vにおいて70pA/eと非常に低い値を得た。波長1.3μmおよび1.55μmにおける感度は、それぞれ200mA/W、24mA/Wであった。また、アバランシェ利得は約40を得た。
関連する成果
・吉本、B.Jalali,“SOI導波路型Si0.56Ge0.44/Si超格子pin
APD”、第59回応用物理学学術講演会、広島大学、16p-s-2(1998).
・吉本、B.Jalali、“SOI導波路型SiGe/Si超格子pin
APDのアバランシェ特性”、第34回応用物理学会北海道支部・第4回レーザー学会東北・北海道支部合同学術講演会、函館、A-31(1998).
1.3μmにおける200mA/Wの感度は、いまのところSOI導波路型SiGe
APDでは最大の値となっており注目を集めている。さらに感度の向上を狙って、Si基板上のGeエピタキシーの実験、また超格子構造を用いたアバランシェ利得の向上を目指して研究を進める。
現在、実用化に向けて産学共同研究の準備を進めている。
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