次世代の高集積MOSLSIでは、数nmレベルの膜厚の極薄ゲート酸化膜が要求され、SiO2/Si界面構造や組成が直接MOSFETの動作特性を支配するようになる。極めて薄い高品質のゲート酸化膜を大面積でかつ再現性よく形成し高信頼化を計ることが重要な課題となっている。本研究はこの数nmレベルの極薄ゲート酸化膜の形成を、赤外線ランプ加熱による急速熱処理技術を用いて、N2
Oガス雰囲気中で行い、種々の条件で形成された膜の物理的性質と電気的特性の評価を行い、膜形成機構の解明を行う。膜厚、電圧ー容量特性、界面準位密度、絶縁破壊特性等の測定、および酸化膜中の窒素および水素原子の挙動を、表面エッチング法、フーリエ変換型赤外分光法等により解析し、膜形成条件の確立と形成機構の解明を併せて行うことを目的とする。
試料としてCZ法、(100)面、比抵抗9〜12Ωbのp型シリコンウェハを1.5b×1.5bに切断したものを用いた。酸窒化前処理として、試料の脱脂処理、希釈フッ酸溶液による自然酸化膜の除去を行った後、化学的洗浄(RCA洗浄)を行った。洗浄後の試料は窒素ブローにより乾燥させ、直ちに急速熱酸化用赤外線ゴールドイメージ炉の反応管内に挿入した。酸窒化に用いたガスは純度99%以上のN2
Oガスであり、ガス流量は200p/xに固定した。酸窒化時間を0〜300秒、酸窒化温度は700〜1200℃の範囲で100℃間隔で酸窒化を行った。酸窒化膜厚はエリプソメトリ法により屈折率を1.460に固定して測定された。酸窒化過程を解析するために、形成された膜の表面からのエッチング速度の変化を希釈フッ酸(HF:H2
O=1:100)を用いる化学エッチングにより行い、窒化膜の存在、多層構造の解析を行った。シリコン酸窒化膜の成長機構としてはDeal−Groveモデルおよび反応中和モデルを用いて実験との整合性を検討した。
1.酸窒化膜厚と酸窒化時間の関係
各酸窒化温度において、酸窒化膜厚は酸窒化時間の増加にともない飽和する傾向がみられる。酸窒化温度が低温の場合、膜の成長速度が小さく、酸窒化膜厚は初期膜厚からほとんど変化していない。それに対し、高温の場合は、最初、膜の成長速度が大きく、膜厚が急激に増加し、その後徐々に飽和する傾向を示す。この膜厚の飽和傾向は通常のO2酸化の場合と大きく異なっており、窒素原子とシリコン表面が反応することにより窒化層が形成され、酸窒化種の拡散が抑制されるためであると考えられる。
2.酸窒化膜組成
酸窒化膜のエッチングプロファイルより、酸窒化膜では、酸窒化膜内部で0.752[Å/s]、酸窒化膜−シリコン界面で0.260[Å/s]と膜の深さ方向で変化がみられる。このエッチング速度の急激な低下は、酸窒化膜−シリコン界面付近に多量の窒素原子が存在するために起こると判断される。これに対し、O2酸化膜のエッチング速度は、酸化膜表面から酸化膜−シリコン界面にかけて0.630[Å/s]と一定の値を示す。本実験より酸窒化膜は、膜内部はO2酸化膜に近い疎な物質、界面近傍は窒素濃度の高い密な物質で構成されている積層構造になっていることが明らかとなった。
3.成長機構
得られた実験データを最小二乗法によりDeal-Groveモデルにフィッティングさせた結果、低温では比較的良い一致を示すが、高温になるにつれ実験データとのフィッティングにずれが生じた。N2
O酸窒化の場合、窒素が界面に偏析し、酸窒化種の拡散を抑制している。このため、酸窒化時間が長くなるにつれて、反応速度が低下し膜厚が飽和する傾向が顕著に表れている(自己抑制効果)。したがって、酸化種のみを考慮したDeal-Groveモデルではこれを十分に表現できないと考えられる。そこで次に、反応中和モデルによるフィッティングを試みた。その結果、このモデルと実験データとが再現性よく一致していることがわかった。これより、N2
O酸窒化の場合、シリコン表面において酸素原子と窒素原子が競合して反応し、窒素が成長サイトを埋め、そのため酸窒化時間の増加に伴って膜の成長速度が低下し、膜厚が飽和する。これにより、エッチングプロファイルによるBulkには酸化膜、界面に窒化層が形成されているという結果が説明される。以上のことから、反応中和モデルがDeal-Groveモデルにおける拡散律速よりもよく実験データと一致していることがわかった。
酸窒化膜においては、酸窒化膜−シリコン界面近傍の弱いSi−O結合が膜中に導入された窒素原子により置換され、薄膜形成の際の膜厚制御が正確に行え、絶縁破壊耐圧特性の向上など、従来の酸化膜に対して様々な利点を持つことが明らかになった。一方、極薄膜の形成技術としての急速熱酸化(RTO)技術は、急峻な温度上昇・下降が行えナノメートルスケールでの薄膜成長、正確な膜厚制御が可能となり、プロセスに要する時間が大幅に短縮される。RTO技術は将来のULSI製造工程における熱的資産(時間・温度積)を最少化・軽減でき、次世代のULSI製造技術として期待される。
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