エゾサンショウウオの室内飼育と産卵

大川  徹(北海道札幌新川高等学校/教諭)

背景・目的
 我々の身近な環境について真剣に考えていかなければならない。札幌周辺はまだ宅地化されていない所もあるが、その地域の自然破壊がどの程度まで進行しているか調査しなければならない。野外で生息している数種の動物類を採集し、室内飼育しながら実験と観察を繰り返すことからそれらの生態を室内で調べる。今回、エゾサンショウウオ(以下、サンショウウオとする)は、試行錯誤ではあったが、本校で飼育できるようになった。室内での基礎実験を積み重ね、サンショウウオ等の生態を解明し、それらを保護していく有り様をみつけていきたい。
内容・方法
 生物の身近で興味・関心がある生き物であるサンショウウオの野外での生態は不明な点ばかりである。サンショウウオの生態を観察するためには、室内で飼育しなければならない。サンショウウオは変態して陸に上がると、動く生きた餌しか食べない。それに比べて変態をする前の幼生は、水の中で生活するため固形飼料を粉末にした餌で簡単に飼育することができる。室内で成体になっても飼育することを目的に幼生の頃、チオ尿素を含む飼育水で無変態処理させ、水の中で一生飼育することに成功した。さらに現在室内飼育している個体でサンショウウオの産卵行動を観察したり、室内で飼育した個体に産卵させ、その卵を育てることを試みている。それらの研究が、今後、サンショウウオの保護につながっていくように継続した研究に取り組んでいきたい。また、飼育したサンショウウオの産卵行動を観察したり、産んだ卵を育ててみたい。また、2・3年目の無変態の個体を普通の飼育水に戻し、変態させた後に採集地に戻して普通に生活できるか観察したい。
結果・成果
 室内飼育のためチオ尿素の濃度を調べた。餌は2日に1回同じ量(薬さじ小1杯位)の粉末にしたマスの固形飼料を与え、水が濁ったらそれぞれの飼育水を取り換えた。サンショウウオを水中で無変態の幼生のまま飼育するには、0.02%が形態に奇形がなく害が少ないことがわかった。サンショウウオは陸生化するまでに約2ケ月半かかる。ある程度普通の飼育水で大きくしてから、チオ尿素溶液に入れたほうがよく成長することがわかった。札幌盤渓で卵塊を採取してから成体の個体を探した。貯水槽の底を虫取り網で掬ってみた結果、落ち葉や小枝と一緒に成体(雌雄)が数匹捕獲できた。雌4匹の内1匹は腹部に卵を持っていたが、他の3匹の腹部はふくれていなかった。生殖孔の形より、雄は雌のそれとは違う4匹であった。また、産卵時に死亡したと見られる雌1匹も捕獲した。捕獲した4匹のうち1匹は卵を産もうとしていたが、3匹は腹部が膨らんでいなかったので、産卵後か、まだ未成熟なのか不明である。腹部に卵を持っていた雌と野生の雄を室内の飼育大型水槽でいっしょに飼育し、水槽内を採集地の環境に近い状態にして室内産卵を試みた。採集地の落ち葉と小枝を水槽に入れ、捕獲した野生の雌雄の行動を観察した。水槽内での雌雄は、水面に浮いていた木片上で雌の後を3匹の雄すべてがついてまわり、4匹が1ケ所にかたまっているのが確認できた。さらに水中でも雌の泳いだ後を3匹の雄がその後について泳いでいた。産卵当日の朝は4匹が木片の上にかたまっていた。その木片の縁に卵塊の先端部分が付着し、卵は2列につながって卵塊におさめられていた。また、成熟した雌の死体を解剖すると腹部の左右に1対の卵巣が納まっていた。室内で産卵した卵塊の形が2列だったことから、生殖孔からそれぞれの卵巣にあった卵が放出されたと推察される。成熟個体は、文献では雄の頭部は三角形に近く、生殖孔はY字形裂口で、雌の頭部は卵円形、生殖孔は1条の十裂口とあった。観察した結果、繁殖期の間成体の雌の腹部が膨れ上がり、雌は腹部が出ることが分かった。繁殖期を終えると、膨れた部分は元のように小さくなり平面で柔らかくなった。また、雄の生殖孔はY字型縦裂口とあったが、実際は縦十字型に裂けていた。個体を腹ばいにさせた上、背中側に反り返させると裂口部分から突起物が出てくることが確認できた。頭部については通常陸地でも幼生時にエラがあった部分をふくらませて呼吸しているため、雌が卵円形の頭部であることは外見からでは分かりずらい。そこで調べる個体のエラ部分を押さえると雌雄の区別ができた。
今後の展望
 野生のサンショウウオは限定された自然環境にしか生息できない動物である。北海道の夏は猛暑ではないが、30度を超える日がある。そんな時、室内飼育の個体は、エサをあまり食べなくなったり活動も鈍る。自然でのサンショウウオの行動を調査するにはいろいろな問題点があるが、その一つに個体のマーキングを工夫しなければならない。次の課題は冬眠である。平成6年から室内で飼育している成体の雄は、1回も冬眠を経験していない。飼育場所は本校の飼育室で、常時20度を保っている。自然の状態でのサンショウウオは落ち葉の下などで冬を越しているのではないだろうか。