振動板による流体摩擦抵抗の低減

石川  仁(北海道大学大学院工学研究科機械科学専攻/助手)

背景・目的
 流れの中の物体が受ける抵抗には、圧力抵抗と摩擦抵抗がある。前者は物体の形状変更により低減が可能であるが、形状変更には限界がある。自動車、航空機等による燃料消費を抑え、さらなる省エネルギー化の実現には摩擦抵抗を低減することが不可欠である。  最近では、摩擦抵抗の生成に物体表面に発生する特徴的な乱流構造(ストリーク)が密接に関連することが指摘されている。この構造をアクティブに制御することが可能であれば、より大幅に摩擦抵抗が低減できる可能性がある。本研究は物体表面に設置した振動板によりストリーク構造を制御し、流体摩擦抵抗の低減を試みたものである。
内容・方法
 実験は水路を用いて行った。水路内に主流方向長さ370mm、スパン方向長さ160mmの固定壁を設置し、その固定壁前縁から200mm下流の位置に振動板を設置した。振動板の主流方向長さは100mmである。振動板はクランク機構を介してスピードコントロールモーターで駆動され、振幅を2.5〜17.5mm、振動数を1.0〜8.0Hzまで変化させることができる。振動板と壁面が接する面にはスリットを設け、振動板が円滑に動くように工夫した。壁面の前縁X=50mmの位置に直径5mmのトリッピングワイヤを設置し、乱流境界層での実験を行った。実験を行った主流速度U=0.05m/sである。このとき振動板中央での境界層厚さδを代表長さとしたレイノルズ数Reδ(=Uδ/ν,ν :動粘性係数)は約1000である。流れ場は水素気泡法による可視化にて観察した。その様子をデジタルビデオカメラにて撮影し、ストリークの数をビデオ映像の静止画から算出した。流速の測定はホットフィルムプローブ(TSI製1231W)を使用し、主流方向の速度を測定した。
 本研究では最も抵抗低減の効果の大きい振動板の振動数および振幅について調べた。
結果・成果
 振動板を振動させた時の流れ場の可視化から以下のことが明らかになった。振動数fが小さいときは発生するストリークの数に変化はないが、f=4Hzになるとストリークの数が減少した。より振動数が大きいf=6,8Hzでは再びストリークの数が増加した。この傾向は振幅を変化させても同じであり、最適な周波数f=4Hzでストリーク数が最も少なく、それ以外の周波数ではストリーク減少の効果は小さかった。
 振動板の振幅Aに関しては、A>10mmでストリークを減少させる効果が大きくなった。このA=10mmという値は、振動を与えない時の平均スパン方向ストリーク間隔の約半分である。すなわち隣り合うストリークが干渉するような振動を与えた場合に、ストリークが崩壊するためである。
 熱膜プローブによる速度の測定では、振動板により境界層のバッファー域と対数域で速度が加速されることがわかった。速度分布から摩擦抵抗係数を求めた結果、振動を与えた場合に摩擦抵抗が低減することが確認された。また、乱れ強さ分布では振動を与えた場合が乱れ強さが小さくなった。このことはストリークの生成に、壁近傍の乱れのメカニズムが強く関連している結果である。
 本研究で得られた結果を要約すると以下のようになる。
(1)振動板によるスパン方向振動を与えることで、ストリークの発生頻度が減少しストリーク間隔が拡大する。
(2)振動板の振幅が、振動を与えないときの平均ストリーク間隔より大きい場合にはストリーク数を減少させる効果が大きい。
(3)振動板の振動数については、f=4Hzの場合が最も制御効果が大きい。
(4)スパン方向振動により、壁面摩擦応力および乱れ強さが減少する。
今後の展望
 本研究では、振動板による抵抗低減に最適な振動数(f=4Hz)と振幅があることが明らかになった。このことは他の関連研究では得られなかった結果である。この最適振動数が決定されるメカニズムを流れの不安定性に関連させて説明したい。
 また、翼や円柱などの曲率と圧力勾配を持つ流れ場にも、振動板による制御が有効である可能性がある。