|
我々はこれまでに、オーエスキー病抵抗性トラスジェニック(Tg)マウスを作出する事に成功した。しかし、このオーエスキー病抵抗性Tgマウスの解析から、感染局所だけではなく潜伏感染部位である三叉神経節においても本ウイルスの複製を阻止するTgマウスを作出する必要があると考えた。そこで我々は、まず感染抵抗性遺伝子を三叉神経節特異的に発現するためのプロモーターの開発と、ウイルス感染によって全身で感染抵抗性遺伝子が強発現するプロモーターの開発が重要であると考えた。本研究では、オーエスキー病抵抗性品種開発のための第一段階として、遺伝子発現系の開発を目的とした。
|
|
オーエスキー病ウイルス潜伏感染時に三叉神経節特異的にLATを発現するプロモーターの神経特異的発現を制御する領域を決定するために、CAT遺伝子の上流にLATの転写開始点(+1)を含む約1Kbのコアプロモーターとさらにその上流領域を0.3〜4.9Kb含むDNA断片を挿入し、CAT発現レポータープラスミドを作出した。これらのプラスミドを細胞に導入し、細胞中のCAT量を定量することで、神経細胞特異的発現に関与する領域を調べた。また、EP0遺伝子のプロモーターの組織特異性を検討するため、EP0プロモーターで駆動するEP0導入用遺伝子を構築した。構築した導入用遺伝子を、マウス受精卵にマイクロインジェクションし、Tgマウスを得た。Tgマウスの各種臓器からRNAを抽出し、RT-PCRを行った。その結果、Tgマウスの全身の臓器でEP0が発現していることがわかり、EP0プロモーターは全身の組織で働くことが示唆された。
|
|
オーエスキー病ウイルス KpnI-F断片を持つプラスミド(pG/KpnI-F)の約1KbのLATコアプロモーター領域(-0.6Kb〜+0.4Kb)およびその上流約4.9Kbを含むKpnI-Bam HI断片をpCAT-Basicにクローニングした。このプラスミドから、コアプロモーターを含む長さの異なるDNA断片をCAT遺伝子の上流にもつレポータープラスミドを作出した。
神経系細胞のNeuro-2aでは、pKpnI/CATからの転写量と約1Kbのコアプロモーターからの転写量にはほとんど変化はなかった。一方、非神経系細胞として用いたVero細胞では、コアプロモーターとその上流0.8Kbを含む約1.8KbのDNA断片からの転写量とコアプロモーターからの転写量に変化はなかったが、それよりもさらに上流の2.3KbのDNA断片を含むレポータープラスミドからの転写量は、コアプロモーターからの転写量の約1/4であった。以上の結果から、−3,603〜−1,386の領域は、Vero細胞におけるLATのコアプロモーターからの転写を抑制する可能性およびNeuro-2a細胞ではその発現を抑制することなく維持する可能性があることが示唆された
コアプロモーターのTATA配列の近傍には、オーエスキー病ウイルスの増殖に必須の転写調節因子であるIE180の結合配列(ATCGT)が存在する。LATプロモーターに対するIE180の作用をCATアッセイで調べた。IE180は、非神経系細胞のVero細胞において、LATプロモーターからの転写を抑制したが、神経系細胞であるNeuro-2aでは、LATプロモーターからの転写量に影響を及ぼさなかった。この結果は、神経系細胞と非神経系細胞における転写調節因子の違いによると考えられた。以上の結果からIE180はLATの組織特異的発現調節に関与している可能性があることが示唆された。
EP0プロモーターで駆動する導入用遺伝子を構築しB6C3F1およびC57BL/6マウスの受精卵前核に注入し、Tgマウスを作出した。EP0遺伝子発現の組織特異性を調べる目的で、各組織からRNAを抽出し、RT-PCRを行った。5系統中2系統において全身の組織でEP0 mRNAの発現が確認された。以上の結果から、EP0オープンリーディングフレームの上流213bpの塩基配列は、全身においてEP0遺伝子を発現できるプロモーター活性を有することおよび全身の組織でプロモーターとして働くことが示された。
|
|
(1) LATプロモーターの神経特異性を証明するため、神経系細胞で特異的に遺伝子発現するレポーター遺伝子を導入したTgマウスを作製し、解析する。また、LATプロモーターで駆動する感染抵抗性遺伝子を導入したTgマウスを作出し、オーエスキー病ウイルスの再活性化抑制能について検討する。
(2) EP0プロモーターで駆動する感染抵抗性遺伝子を導入したTgマウスを作出し、オーエスキー病ウイルスに対する抵抗性を検討する。
(3) LATおよびEP0プロモーターで感染抵抗性遺伝子が駆動する2系統のTgマウスを交配させ、感染局所および潜伏感染部位である三叉神経節においてウイルスの複製を阻止するダブルTgマウスを作出し、その抵抗性ならびに副作用を調べる。
以上の研究で得られた成果は、必ずやオーエスキー病抵抗性品種開発に結びつくと考える。
|