マリモ大量増殖に関する研究

倉本 貢司(潟}ルシャン/代表取締役)     
津野 雅俊(北海道電力叶カ物環境グループ/主査)

背景・目的
 マリモは日本国内限られた湖沼に分布する緑藻類の一種で阿寒湖に分布する物は国の特別天然記念物に指定されているばかりでなく水産庁(日本の希少な野生水性物に関する基礎調査)で絶滅危惧種に指定されている貴重な植物です。
 北海道の一部湖沼で採取(許可済み)されているマリモ糸状体は、養殖マリモの原料として利用されており北海道観光の土産品として定着したものとなっています。
 しかしこの養殖マリモの原藻資源は近年急激に減少してきており資源保護が急がれています。
 本研究は、北海道電力椛麹研究所に於いて基礎研究が行われたものを引継ぎ、マリモ糸状体の大量培養実用化に向け技術の確立を図り、養殖マリモの原藻の安定供給を図り北海道の観光産業に寄与するとともに貴重種マリモの保護に貢献することを目的としています。
内容・方法
@マリモ糸状体の洗浄
 シラルド湖産原藻(養殖マリモとして一般に販売されているマリモの原藻)に混じっている枯死した水草や泥などのゴミを可能な限り除去する。培養の障害となる付着珪藻や原生動物等の微生物の多くはこうしたゴミとともに存在している場合が多いことから、可能な限り除去する。
A汽水馴化
 環境水の塩分濃度が急激に変化した場合、浸透圧の変化によってマリモ糸状体の細胞が損傷を受けることから、塩水処理を行う前に希釈した塩水に1週間程度漬けて馴化させ、塩水処理でのマリモ糸状体の損傷を軽減する。
B塩水処理
 より高い塩分濃度の汽水に数日間漬けることで、急激な浸透圧の変化を利用して付着珪藻などの微生物を死滅させ、除去する。
C培養
 塩水処理を行ったマリモ糸状体を、生長を促進する作用のある汽水に肥料成分を加えた培養液を満たした水槽へ収容し、培養する。
D収穫
 1ヶ月経過後、増殖したマリモ糸状体を収穫計量する。
結果・成果
 収容から収穫まで1ヶ月の培養サイクルで試験を実施した。
@マリモ収容密度と収穫量の関係
 マリモ糸状体の初期の収容密度は湿重量で1g/rを目安にする。この時の計測は約1,000rpmで5分間脱水した後の重量である。
 水生藻類の培養では単位重量当たりの栄養塩類の関係からマリモ糸状体は収容密度が大きいほど成長率は低下するのが一般的である。
 同じ収容密度にあってもマリモ糸状体の生長のスピードが早い場合、マリモ糸状体がからまり合いマリモ状になってしまい成長率を低下させる現象がみられた。
 この場合はマリモ状になった物を手でほぐして水槽にすみやかに戻し、成長率の低下を防いだがエアレーション+攪拌装置の回転の関係もありマリモ状にならない様に回転数を毎分134〜110までおとした。
A水温と成長率
 No.4テスト期間中に通常20〜23℃の範囲内で管理をしていた水槽の水温が28℃まで上昇してしまったが成長率は1.9倍となった。しかし水温の上昇率はユスカリ等の発生も伴う為温度管理(夏季、冬季)の完全に出来る水槽内の機械設置が必要だと思われる。
B蛍光灯とハロゲンランプの比較
 培養水槽はマリモ糸状体を攪拌し均一に光が当たるようにするが特に照明を当てている間は培養液のpHが上昇する。pHが8.0以上になると生長が低下しpH8.5以上では生長が抑制されることから、pHの上昇が著しい場合は注入培養液のピッチを上げたり光の調節をする。
 No.6のテストの場合は光も多く取り入れ培養液の注入も増やし良い結果が得られた。
C付着藻類
 付着藻類の繁殖はマリモの生長に多大な影響を与えるものと考えられ、大量培養を検討する上で最も重要な課題と考えられる。マリモ源藻には付着藻類をはじめとしてゾウリムシ、ツリガネムシ、アメーバーなどの原生動物、ユスリカ類などの昆虫類、線虫類、ミズダニ類各種バクテリアなどの様々な微生物が混じっている。これらを含まないマリモの原藻が得られた場合付着藻類などの繁殖によるマリモの生長率の低下や品質の低下などの要因がなくなり理想的な条件での培養が可能となる。しかしこれらを取り除く薬剤に対してマリモの原藻は感受性が高く、完全に除いた原藻は入手不可能である。
 より良い状況で大量培養システムを検討する為には培養液の温度pH等の培養の条件をできるだけ一定に維持し急激な変化を与えぬ様に注意しなければならない。
D培養液
 人工海水(塩分濃度25.00‰)を水道水で16倍に希釈したものです。
今後の展望
 今回得られた研究結果から、マリモ糸状体の成長に障害となる培養液の水温、pH等の急激な変化をいかに一定に維持するかを引き続き研究し、培養液に発生するユスリカ類などの微生物が増殖に及ぼす影響も研究する必要がある。
 大量増殖プラントの設立に向け、設備、培養液のコストが大きな問題となるので、どこまで低減できるか年間培養スケジュールなど検討し、低コスト化を研究していきたい。