サイトカイン併用DNA/コラーゲンスポンジによる歯周組織再生

村田   勝[ 北海道医療大学歯学部/講師]
有末   眞[ 北海道医療大学歯学部口腔外科学第2講座/教授]
久保木 芳徳[ 北海道大学歯学部生化学講座/教授]
平   敏夫[ (株)サンギ北海道研究所/所長]
背景・目的

失われた歯周組織をコラーゲン性材料と成長因子の併用により組織工学的に再生させる研究が進行中である。DNA/コラーゲン複合線維は北海道の産業副成物から開発された新機能先端材料であり、皮膚創傷治癒促進効果や抗菌性を有することが明らかになっている。
本研究の目的は、スポンジ状DNA/アテロコラーゲンマテリアルを骨誘導活性のある骨形成タンパク質(Bone morphogenetic protein:BMP)と複合化して、歯槽骨・歯根膜欠損部に対する効果を組織形態学的に評価した。

内容・方法

サケ精巣由来DNA(分子量100万以上)を50%エタノールに溶解後1%DNA溶液を調製した。アテロコラーゲン溶液は、ウシ真皮由来コラーゲンをペプシンで可溶化した後精製し、1%アテロコラーゲン酸性溶液とした。DNA/コラーゲン複合線維の作製は、アテロコラーゲン溶液を紡糸繊維装置のノズルを通してDNA溶液中に噴射した後、洗浄凍結乾燥してスポンジ状にした。
全身麻酔を施行後、ビーグル犬6頭(雄性、11〜13ヵ月齢)の下顎左側第2前臼歯と第3前臼歯の近心根相当歯槽骨に縦10mm、横5mmの裂開型骨欠損を注水下で2ヵ所形成した。露出した根面を歯根膜が残存しないように掻爬し、生理食塩水で洗浄した。
実験群として、BMP(500μg)/DNA/コラーゲンスポンジ(10×5×5mm)群とDNA/コラーゲン群を設定し、対照として非填入群を設定した。各処置後、粘膜骨膜弁を復位させ創部を縫合して終了した。4,6後に摘出された脱灰試料から、パラフィン切片作製(厚さ4μm)後、ヘマトキシリン−エオジン(H-E)染色を行い、光学顕微鏡で観察した。

結果・成果

(1) BMP/DNA/コラーゲン群
4週間後歯根面は掻爬により波状を呈し、露出象牙質面に連続性のある無細胞性セメント質と有細胞性セメント質の形成がみられた。本来の歯槽骨部は梁状骨で占められ、歯根と新生骨間には正常に比べ拡大傾向を示すものの比較的均一な幅の歯根膜様組織がみられた。新生骨梁は連続しており、骨梁間には血管の豊富な骨髄形成が認められた。DNA/コラーゲン線維の残存はみられなかった。
6週後、新生歯槽骨内から歯根方向に走行する水平線維が認められ、露出象牙質面には無細胞性セメント質と有細胞性セメント質の形成が混在してみられた。歯根と新生骨間に歯根膜様組織が形成され、新生骨と根面の癒着(アンキローシス)は観察されなかった。
(2) DNA/コラーゲン群
4週後歯根面は波状を呈し、歯根根尖側から1/2付近に細い新生骨形成が認められたものの、本来の歯槽骨部は主に結合組織で占められた。歯頸部象牙質表層に巨細胞が出現し、吸収窩がみられた。DNA/コラーゲン線維の残存が局所的に認められた。
6週後骨形成レベルは少し増加したものの骨梁は細く、新生骨梁と新生セメント質との間のみに比較的均一な幅の歯根膜様組織がみられた。非骨形成部の結合組織の線維走行は、歯根にほぼ平行な垂直方向であった。DNA/コラーゲン線維は吸収された。
(3) 非填入群
4週後の露出した象牙質表面にセメント質が部分的に形成された。欠損部は主に結合組織で占められ、広範囲にわたる結合組織性付着と歯根の根尖側1/3付近までの既存骨と連続した細い梁状骨が認められた。
6週後、新生骨はわずか厚みを増すものの骨形成レベルは変化がなく、周囲軟組織の陥入が認められた。
アテロコラーゲンへのDNA複合化の利点として、1.DNA共存下で太く強靱な横紋構造を有するアテロコラーゲン線維が再生する、2.細胞毒性のある化学的架橋剤を使用せずに複合線維化できるのでコラーゲン本来の生体親和性を損なわない、3.DNAコーティングにより酵素によるアテロコラーゲン線維の分解速度が遅くなる、4.DNAの水溶性により血小板凝集速度を遅延化できる、5.天然に大量に存在する未利用生物資源の有効再利用となる可能性が挙げられる。
BMP/DNA/コラーゲン群4週後に正常歯槽骨にほぼ相当する幅と高さの骨が欠損部に形成され、新生歯槽骨内から歯根方向へシャーピー線維様の太いコラーゲン線維の水平走行と新生セメント質がみられたことから、歯根膜様組織が再生されつつあるものと考えられる。
以上より、BMP/DNA/アテロコラーゲンシステムは、歯根膜の恒常性維持機構を阻害せずに歯槽骨・歯根膜の再生を促進する可能性が示唆された。

今後の展開

本機能マテリアルの原料は未利用生物資源であり、天然高分子資源を再利用して生体内部組織を再生するという再生医学への貢献が期待されるとともに製品化により廃棄物の軽減、高付加価値利用、新規処理企業の創出といった社会的・経済的効果が大きいものと予想される。
近年コラーゲンを遺伝子導入ベクターの担体として活用する遺伝子治療法が提案されている。今後、DNA/アテロコラーゲン複合線維を安全な機能性マテリアルとして改良するとともに、BMP濃度を調製したり他のサイトカインを併用することでより確実な歯周組織再生法を確立する必要があろう。