知的クラスター創成事業 〜 5年間の成果
「札幌ITカロッツェリア構想」では、地域のIT企業が、これまでの下請け構造からの脱却を目指し、企画立案からソフトウェア開発、試作品製作までのトータルなビジネス展開と自ら新商品の提案ができる企業群の創出を目指してきました。
この目標達成に向けた取り組みとして、札幌地域の強みである「組込ソフトウェア」に「ユーザビリティ」と「デザイン」を融合させ、IT機器開発において、異なる開発環境を一元的にプロセス管理できる「ものづくりプラットフォーム」の構築に向け、産学官が連携して研究開発を行ってきました。
携帯電話に代表される情報機器、DVDレコーダーなどの情報家電、電気炊飯器などの白物家電を制御するために内蔵するソフトウェアとハードウェアの組込システムは、本事業で取り組んだ産業分野の一例です。
例えば、携帯電話は通常の音声通話のほか、電子メールやカメラ、さらには電子決済やテレビなど、膨大な機能が収納されています。しかし、その機能の複雑さとは裏腹に、約3ヶ月程度で新機種が続々と市場に投入されていることから、開発期間の短縮や、機能のわかりにくさや使いにくさの改善といった課題が明らかになっています。これらの課題を念頭に、設計段階からデザイン、使いやすさを考慮し、試作品の製造にあたっては、常にこれらの情報をリアルタイムで共有し、その時々の問題をすばやく解決する迅速な試作品開発(ラピッドプロトタイピング)システムの構築を目指しました。
産学官が連携して「ものづくりプラットフォーム」の構築に係る研究開発を行った結果、札幌地域内に効果的な産学官の協働体制が構築されるようになりました。
これらの結果、新商品が8件、試作品40件、関連技術の特許等の出願、新企業の設立、新事業の創出など、多くの成果がありました。
<新商品の例>
○メッシュ自動生成ソフト(MRRメッシャー)
強度等をコンピューター上で解析するため、製品の形状を複数の三角形で表現し、その粗密などを自由に制御できるソフトウェア。従来手法を凌駕する高度な精度と制御性を実現。これにより、解析時間の大幅な短縮と解析精度の向上を両立することが可能となった。
○加圧脈波計![]() |
加圧脈波計は、動脈硬化など生活習慣病の予防・病後管理に効果的とされる医療機器。 現在普及している加速度脈波計は1台20〜60万円と高額であるが、この研究で開発する加圧脈波計は、市販の家庭用血圧計と同程度の大きさ・価格で、一般家庭での普及を目指す。 |
また、知的クラスター創成事業による波及効果として、
○北海道などのホームページ、知的財産活用のシステムなど、北海道のWebサイトの構築に当たり、ユーザビリティの考え方を調達基準として導入。
○札幌市立大学にデザイン学科を設置し、4つのコースを開設。製品デザインコースにおいては、知的クラスター創成事業で培われてきた機能性と使いやすさを兼ね備えた製品開発など、大学から地元企業への人材供給の観点から産学連携の体制を構築する。
○小樽商科大学では、ユーザビリティに関するコンサルタント、企画、仕様設計、ソフトウェアやハードウェアの評価を事業として開始し、企業の商品企画の共同実施に関するビジネスパートナー契約を大手企業と契約。
○北海道を代表する観光地の一つである函館地域では、公立はこだて未来大学と企業が連携して、ITを活用した観光振興に取り組んでいる。
等の地域独自の取り組みがあげられます。
札幌地域においては、知的クラスター創成事業を推進して得られた成果が、科学技術面と経済面において地域への波及効果があったことから、地域の自立性、
地域活性化、地元企業活性化等に貢献したと評価しています。
次回は、事業終了後も持続可能なクラスター形成に向けた中核事業体の設立など、今後の取り組みについてご紹介します。